大分県出身。昭和30年、大分県大野高等学校卒業。熊本大学を経て東京都立大学大学院
人文科学研究科(国文学専攻)修了。文学博士。昭和43年、別府大学講師、昭和45年、熊本大学助教授、昭和50年、同教授。平成14年、同名誉教授、平
成音楽大学教授。
研究書に『高村光太郎』(昭和41年)、『金子光晴研究』(同45年)、『福永武彦の世界』(同49年)、『福永武彦・魂の音楽』(平成8年)があり、句
集『己身』(平成5年、熊本県文化懇話会賞)、『火芯』(同8年)がある。
明治29年から、4年3ヵ月、熊本の第5高等学校教授だった夏目漱石は、後に『三四郎』という面白い青春小説を書きました。三四郎は五高を卒業、東京の大学に入学するため上京する汽車の中で、中年の髭(ひげ)の男と出会い、話をします。
その男は日露戦争に勝って意気が上がる日本について、すまして「亡びるね」と言ってのけます。「熊本でこんなことを口に出せばすぐに擲(な)ぐられる」と
考える三四郎に、さらに言います。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い、日本より・・・」で一寸切ったが、三四
郎の顔を見ると耳を傾けてゐる。
「日本より頭の中の方が広いでせう」」と云った。「囚(とら)われちゃ駄目だ。いくら日本の為を思ったって、贔屓(ひいき)の引き倒しになる許(ばか
り)だ」(『三四郎』)
自立してものを考えようとする人間に、これほど重く厳しいことばはありません。「日本より頭の中の方が広い」という可能態としての真実、漱石は無限に広が
る人間の内部の世界を見事に指示しているのです。
大学の一般教養は、自分の頭の中を日本より広くしていく重要な鍛錬の場だと思います。「囚われちゃだ駄目だ」という漱石のことばを、反芻(はんすう)しな
がら、じっくりと学びたいと考えています。